飲食店でアルバイト・パートを1人でも雇用した場合、労働保険などの加入義務が発生し、それに伴う書類の提出などの手続きが発生します。
そこでこの記事では、アルバイト・パートの雇用に関する手続きや書類、アルバイト・パートを雇うことによるメリット・デメリットについてまとめました。
また、記事後半ではサブトピックとしてアルバイト・パートの募集方法もいくつかご紹介していますので、あわせてチェックしてください。
アルバイト・パートの雇用に関する手続きおよび必要な書類
この章では、飲食店経営者がアルバイト・パートを雇用する際に必要ないくつかの手続きについて解説いたします。
①労働条件を通知する
飲食店でアルバイト・パートを雇用する際は、「労働条件通知書」を兼ねた雇用契約書を作成する必要があります。
この労働条件通知書には、労働基準法により定められている以下の項目を必ず記載しなければいけません。
- 契約期間
- 勤務地
- 労働時間
- 業務内容
- 休日休暇や休憩、有給
- 給与と支払い方法や期日、支払日
- 昇給や退職金、賞与の有無
- 労働契約の更新の有無とその基準
- 解雇を含む退職に関する取り決め
これらの項目は、雇用される側に書面で見せることが義務化されており、事業主と雇用される側が同意した際にそれぞれ捺印と署名を行います。
「労働条件通知書」を兼ねた雇用契約書は、改ざんやトラブルを防ぐためにも2部作成し、事業主と雇用される側の双方で保管しておくようにしましょう。
また、情報管理のために就業規則を定めた誓約書、NDA(秘密保持契約)へのサインをしてもうらこともおすすめします。
②労働保険・社会保険の手続き
実際にアルバイト・パートを雇用した場合は労働保険、雇用人数によっては任意で社会保険の手続きをしなければいけません。
メモ:労働保険は、「労災保険」と「雇用保険」。社会保険は、「健康保険」と「厚生年金」 |
---|
加入義務があるのにも関わらず未加入のままで労働災害が起きた場合、事業主は多額の費用を負担することになってしまうので忘れずに加入しましょう。社会保険労務士に依頼することで、事務処理の削減にもなるのでおすすめです。
下記に各保険の加入条件や手続きの方法をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
労災保険
「労災保険」は、通勤中や就業中に起きた従業員のケガの治療費の支給や、休業補償をする制度です。保険料は事業主が負担する必要があります。
項目 | 概要 |
---|---|
加入条件 | 1人でもアルバイト・パートを雇った場合 |
手続き方法 | 以内に「労働保険関係成立届」、雇用して50日以内に「労働保険概算保険料申告書」を提出する |
届出先 | 労働基準監督署 |
雇用保険
「雇用保険」は、従業員の雇用の安定や再就職の促進を目的とした制度で、主に以下のような内容となっています。
- 従業員が離職したときの「基本手当(失業給付)」の支給
- 従業員が教育訓練を受けるための「教育訓練給付」の支給
- 育児休業期間中の「育児休業給付」の支給
- 事業主に対するさまざまな助成金や給付金の支給
保険料は事業主と従業員が折半して負担します。
項目 | 概要 |
---|---|
加入条件 | 週の所定労働時間が20時間を超え、かつ、31日以上継続して雇用する見込みのある従業員を雇った場合 |
手続き方法 | 雇用関係が成立した日が属する月の翌月10日までに、「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する。以前にもその従業員が就業していた場合、別途「雇用保険被保険者証」による被保険者番号の確認も必要。 |
届出先 | ハローワーク |
備考 | 原則、学生アルバイトは適用除外者だが、休学中や定時制の過程に在学する者、卒業後も引き続き雇用されることが決まっている卒業予定者は被保険者である。 |
社会保険(健康保険・厚生年金)
社会保険には「厚生年金」と「健康保険」「介護保険」があり、保険料は、事業主と従業員の折半して負担します。
項目 | 概要 |
---|---|
加入条件 | 法人経営の飲食店で従業員が5人以上になった場合 |
手続き方法 | 従業員が5人以上になった日から5日以内に「新規適用届」「新規適用事業所現況書」「被保険者資格取得届」「健康保険被扶養者届」を提出する。 |
届出先 | 年金事務所 |
備考 | ・5人未満なら任意で加入が可能・個人経営の飲食店の場合、「任意適用事業」なので何人雇用しても加入は任意 |
③税務署での手続き
雇用主がアルバイト・パートに給与を支払う際、雇用してから1ヶ月以内に所轄の税務署にて「給与支払事務所等の開設届出書」を持参もしくは郵送する必要があります。
④源泉徴収の準備
アルバイト・パートを雇用したら「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を毎年記入してもらう必要があり、この申告書をもとにアルバイト・パートの給与から税金を天引きし、雇用主が税務署に納めます。
また、年末には年末調整が必要です。
通常、毎月納付する義務がありますが、従業員が10人未満ならば「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで、年2回のみの納付が許されます。
事務処理の削減にもなるので提出することをおすすめします。
アルバイトとパートを雇用するメリット・デメリット
アルバイト・パートの雇用は、もちろんメリットもありますが、同時に考慮すべきデメリットがあります。ここではそのメリットとデメリットについて解説しているので、ぜひご確認ください。
メリット
①必要な人員に必要な時間だけ働いてもらえる
アルバイト・パートを雇用することで、繁忙となる時間帯や期間など、人手が必要な時だけ必要な人員に働いてもらえるというメリットがあります。
また、必要な人数を必要な時間分だけを時給で精算できるので、正社員を採用するよりも人件費の削減にも繋がります。
②業務効率・生産性の向上
人手が増え、新しく雇い入れた従業員のスキルが上がっていくことで、業務効率や生産性が向上します。それと同時に、既存の正社員の労働時間の軽減やプライオリティーが高い業務への時間を確保できます。
③条件によっては助成金の申請ができる
アルバイト・パートを雇うことで、一定の条件を満たした場合には助成金や優遇税制の申請ができます。
例を挙げると、就職困難者を雇用する「特定求職者雇用開発助成金」や雇用情勢が厳しい地域で従業員を雇い入れる「地域雇用開発助成金」などです。
デメリット
①中長期的な育成が難しい
特にアルバイトスタッフの場合、時間がある時に気軽に働くことを目的にアルバイトをしているので、育成しても長期的に勤務し続ける可能性が低いです。
働く条件が悪い・合わないと感じると正社員よりも離職されやすいので、根本の人手不足の解消には繋がりません。
②欠勤や定期的な人員の入れ替わり
ほとんどの飲食店では、応募者の母数も多いので学生アルバイトを採用することになるでしょう。しかし、学生アルバイトが多い場合、試験期間や長期休暇、帰省、部活動、サークル活動などで、まとまって欠勤され、一時的な人手不足になる可能性があります。
また、卒業と同時に退職が決まっているなど、学生アルバイトは入れ替わりが定期的に発生しますので、その都度新たに人員の補給および教育をしなければいけません。
飲食店のアルバイト・パート雇用の注意点
この章では、飲食店でアルバイト・パートを雇用する上での注意点を解説します。既出した内容もなかにはありますが、特に注意すべきことをまとめているのでぜひご確認ください。
雇用保険の加入義務
先述したように、雇用期間が31日以上で週20時間以上の勤務が見込まれるアルバイト・パートを雇う場合、雇用保険に加入する義務が生じます。
事業主の家族のみをアルバイトとして雇う場合は、原則として雇用保険加入の義務はありません。しかし、家族以外の雇用や他の従業員と同条件で勤務させる場合、家族であっても雇用保険加入の義務が生じるので注意が必要です。
学生アルバイトは休みが集中する恐れがある
こちらも繰り返しにはなりますが、学生アルバイトは試験期間や長期休暇、帰省、部活動、サークル活動等で休みが集中する恐れがあります。
人員の枯渇を避けるためにも、採用面接時に既存の従業員とのスケジュールバランスを確認しましょう。
家族への給料は要注意
家族は従業員として認めてもらうことが難しいので、原則、経費申請ができないので注意が必要です。
家族を事業専従者とするには、他のアルバイト・パートと同様に給与の支払いや労働時間の管理等が必要になります。
アルバイト・パートの募集方法
アルバイト・パートの募集方法によって、集まる人材のタイプは異なります。効率良く求める人材を集めるためにも、目的に合った募集方法を選択することが重要です。
ここでは4つのアルバイト・パートの募集方法について解説しますので、それぞれの特徴からご自身の目的に合った方法を選びましょう。
①求人サイトを利用する
タウンワークやバイトルなどの総合求人サイトや、飲食店.com、グルメdeバイトなどの飲食店特化型求人サイトを利用して募集する方法が一般的です。
もっとも効果的かつ多くの求職者にアプローチができるメリットがあります。
媒体によって掲載プランが異なるので、予算に合った求人サイトを利用しましょう。以下は、例として求人サイト数社の掲載プランをまとめました。
求人サイト | 掲載プラン(首都圏の場合) |
---|---|
タウンワーク | 掲載料19,000円〜(1週間あたり) |
バイトル | 掲載料34,000円〜(4週間あたり) |
飲食店.com | 掲載料19,800円〜(1ヶ月あたり) |
グルメdeバイト | 掲載料999円(1日あたり)、初期費用0円 |
②店頭などに張り紙・ポスターなどを設置
店舗に張り紙やポスターを設置する募集方法は、アナログ的ですがかなり効果がある方法です。
実際、家の近所で働きたいという働き手は多いですし、事業主側からしても広告費用をかけずに求人募集できるというメリットがあります。
ただし、アプローチできる人数に限りがあるので、急ぎで人材を確保したい方はこの記事で紹介している他の募集方法も併用しましょう。
③人材派遣の利用
人材派遣会社を利用することで、必要な人材を必要な時間・期間だけ雇用することができるため、急なスタッフの欠員を埋めることができます。また、新規のスタッフを探す時間を節約できるというメリットもあります。
ただし、以下のようなデメリットもあるので注意が必要です。
- 面接がないので派遣される人材を選べない
- 良い人材でも雇用期間を過ぎると辞めてしまう
- 複雑な業務は任せられない
- 無断欠勤されることがある
多くの人材派遣会社では「完全成功報酬型」を採用しており、人材採用に成功した際はスタッフの予測年収の30~35%を手数料として店舗側が派遣会社に支払います。
仮にスタッフが契約期間内に早期退職したとしても、派遣会社によっては手数料を返金してくれることもあるので、契約前に確認しておきましょう。
おすすめ派遣会社「タイミー」
「タイミー」は、通常の求人募集に必要な面接がなく、空いた時間に働きたい人と人員不足で数時間だけ人手が欲しい事業主をマッチングさせるサービスです。
広告費は無料ですが、契約が成立してスタッフの勤務が終了した時点で、日当報酬の30%を手数料としてタイミーへ支払う完全成功報酬システムを採用しています。
④知人・スタッフの紹介
既存スタッフから紹介してもらう、いわゆるリファラル採用ですが、すでに知人が働いていることから仕事のイメージや内情を理解している応募者を募ることができます。
また、類は友を呼ぶではありませんが、すでに活躍していて人柄も良いスタッフの知人は同様に質の高い人材である可能性が高いです。
しかし、あまりに親しすぎる関係性ですと、アルバイト中の私語が多くなったり、同時に欠勤されてしまうリスクもあるので注意が必要です。
リファラル採用の費用は基本無料ですが、すかいらーくグループのように「友人紹介制度」として、紹介した人と紹介を受けた人にそれぞれ食事券をプレゼントする取り組みを行っている企業もあります。
飲食店のアルバイト・パート採用求人におすすめの求人サイト3選
①タウンワーク
「タウンワーク」は、フリーペーパーと自社Webサイトの2つの掲載形態を持っているのが特徴です。
フリーペーパーは、駅やコンビニ、レストラン、スーパーなどに置かれており、求職者がいつでも無料で手に取れるので、紙媒体の求人広告の中ではトップクラスの効果を誇ります。
また、掲載エリアが細かく分かれているので、求人募集したいエリアにピンポイントで求人の掲載ができるので、企業側は広告費を抑えることができます。
掲載エリア | 掲載期間 |
---|---|
関東 | 1週間 |
関西 | 1週間 |
東海 | 1週間 |
北海道 | 1週間 |
東北 | 1週間 |
甲信越・北陸 | 1週間 |
中国・四国 | 1週間 |
九州 | 1週間 |
掲載エリア | 料金 |
---|---|
関東 | ¥19,000~ |
関西 | ¥18,000~ |
東海 | ¥18,000~ |
北海道 | ¥10,000~ |
東北 | ¥10,000~ |
甲信越・北陸 | ¥10,000~ |
中国・四国 | ¥10,000~ |
九州 | ¥10,000~ |
②バイトル
「バイトル」の会員層の7割が10代~20代で、飲食店においてアルバイトの主力となる若年層へアプローチすることができます。
また最近では、テレビCMやWeb広告のPRに力を入れていることからサイト認知度も高まっています。
バイトルの掲載プランはAプランからPプラン(EX)までの7種類が用意されており、上位プランであるほど検索上位に表示され、露出が増える仕組みとなっています。
掲載エリア | 掲載期間 |
---|---|
東京都6区版 | 1〜24週間 |
掲載エリア | 料金 |
---|---|
東京都6区版 | ¥34,000(最小値)~ |
③マイナビバイト
「マイナビバイト」は、テレビCMやWeb広告に力を入れている求人サイトで、圧倒的なネームバリューと集客力を誇っています。
特に10代~30代までの若年層が80%を占めており、フリーターや大学生が最も多く、続いて高校生から主婦層の順に会員数の割合を占めています。
以下の表のようにリーズナブルな掲載プランが用意されており、最短で翌々日から求人の掲載ができます。
掲載プラン | 掲載期間 |
---|---|
ADライト | 1週間 |
ADスタンダード | 1週間 |
ADスタンダードプラス | 1週間 |
ADスーパー | 1週間 |
ADプレミアム | 1週間 |
掲載プラン | 料金 |
---|---|
ADライト | ¥20,000(税別) |
ADスタンダード | ¥30,000(税別) |
ADスタンダードプラス | ¥35,000~(税別) |
ADスーパー | ¥56,000~(税別) |
ADプレミアム | ¥140,000~(税別) |
まとめ
ほとんどの飲食店経営者は、業務効率や生産性向上、また、必要な人員に必要な時間だけ働いてもらえることからアルバイト・パートの雇用を考えるでしょう。
しかし、雇用にはそれ相応の納税や保険加入などの義務が生じます。
特に開業前はその他の事務処理で多忙になるので、税金や保険等の手続きは専門業者に助力を求めることをおすすめします。