有効求人倍率とは
有効求人倍率とは、ハローワーク(公共職業安定所)に登録されている有効な求人数と求職者の人数を割った値のことです。
求職者1人あたりに求人が何件分あるかを表しており、「仕事への就きやすさ」の目安となります。
この指標は、あくまでもハローワークに登録されている求人の数、求職者数を元に算出されているため、ハローワーク以外の求人媒体で掲載されている求人やハローワークに登録していない求職者は含まれません。また、ハローワークで有効となっている求人についても、必ずしも正社員の募集であるとは限りません。
しかし、有効求人倍率は雇用動向を表す重要な統計の1つであり、雇用動向は景気と連動していると言われているため、景気の状況を測る指標にもなります。
過去にあった景気の変動と有効求人倍率の動きとしては、日本の経済が活発だったバブル期に有効求人倍率が上昇しており、2009年に国際的な不況を引き起こしたリーマンショックの際は、求人倍率も大きく下落しています。
有効求人倍率が高い時・低い時の影響
さて、冒頭で有効求人倍率は仕事への就きやすさの目安になるということについて触れましたが、実際に求人倍率の値が高くなったり、低くなった時にはどういった影響があるのでしょうか。
それぞれの状況について解説していきます。
有効求人倍率が高い時
有効求人倍率は、「仕事を探している人1人あたりに何人分の求人があるのか」という指数ですので、数値が「1」の場合は、求職者1人につき1つの求人がある状態を表します。そのため、有効求人倍率の基準値は「1」として考えます。
倍率が1を上回っているときは、仕事を探している人よりも求人の数の方が多いため、企業としては人手が足りていない、また求人に対して応募者が足りないといった状態になります。一方、求職者にとっては仕事や企業の選択肢が多くなり、就職がしやすいということになります。
これは、前述した景気と有効求人倍率の連動にも関連しており、1985年以降に経済が活発となったバブル経済期では、倍率はピーク時で1.4倍にまで上がりました。また近年では、「アベノミクス」と呼ばれた経済政策により、金融緩和や民間企業への投資など成長戦略がとられ、2018年に年間の有効求人倍率がバブル期を超える約1.6倍となりました。
有効求人倍率が低い時
では、逆に有効求人倍率が低くなっているときはどういった状況になるのでしょうか。
求人倍率の値が1を下回っているときは、求人数よりも仕事を探している人の方が多くなっています。そのため、企業にとっては求職者を集めやすいといった状態になります。それに対して、求職者にとっては、求職者同士の競争が激しくなるなど、仕事に就くことが難しい状況になります。
また、有効求人倍率は景気が悪くなった場合も、連動して低くなる傾向があります。求人倍率が上昇していたバブル経済が崩壊したことによって、1991年から求人倍率は下落しだし、1999年には0.48倍まで下がりました。さらに、前述したリーマンショックがあった時も、影響は顕著に現れており、一時はバブル崩壊後では最低数値の0.44倍にまで下落しました。
コロナの影響による有効求人倍率の変化
2020年は、新型コロナウイルスの流行によって私たちの生活は大きく変化しました。
感染対策として大規模な行動制限が行われ、日本だけでなく世界中が不況となりました。そのため、さまざまなビジネスが経営困難に陥るなど、経済に膨大な影響がありました。
ここからは、新型コロナウイルスの流行が始まってからの有効求人倍率の変化について解説していきます。
コロナ流行時から現在にいたるまでの有効求人倍率の変化
新型コロナウイルスの感染が始まってから現在まで、全国の有効求人倍率はどのように変化していったのでしょうか。
参照:一般職業紹介状況(職業安定業務統計)|厚生労働省
URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
パンデミックが起きる前の2019年は、年間平均の有効求人倍率が1.6倍でした。しかし、2020年1月から有効求人の数が減少しだし、徐々に求人倍率も下降していきます。2020年9月には求人倍率は1.04倍まで下がりました。
その後、2020年年末まで求人倍率は横ばいでしたが、年があげて2021年からは1.1倍と少し上昇しており、現在発表されている最新数値の2021年8月は1.14倍となっています。
未だに2019年の平均値まで戻るほどの上昇はありませんが、2021年に入ってからは、最低値だった2020年中旬に比べ、少しずつではありますが上昇しているようです。
今後も新型コロナウイルスの影響は続くことが予想されており、すぐに求人倍率が以前の値に元通りとなることは難しいと考えられますが、ワクチンの普及などによって感染者数が減少傾向にあるため、今後経済が少しずつ動き出すことで、求人倍率も上昇していく可能性はあるでしょう。
飲食業界の有効求人倍率の変化
さまざまな業界の中でも、飲食業界は新型コロナウイルスの影響を非常に受けた業界と言われています。
コロナ禍で客足が減る中、時短営業や酒類の提供停止など、さまざまな規制の中で営業しなければならず、大手飲食チェーン店ですら閉店に追い込まれました。そういった飲食業界へのダメージが連日報道されるなど社会問題となりました。
そういった状況下で、飲食業界の有効求人倍率はどのように変化していったのでしょうか。
参照:一般職業紹介状況(職業安定業務統計)|厚生労働省
URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
これらのグラフを見るとわかるように、初めての緊急事態宣言が発令された4月から求人倍率はかなり下落していることがわかります。求人倍率が一番下がった時は、接客・給仕では1.55倍(2020年6月)、飲食物調理では1.64倍(2020年9月)を記録しています。
新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年平均値や2020年初頭では、常に求人倍率は3倍を超えており、接客・給仕では4倍に近かったことを踏まえると、改めて飲食業界への影響の大きさがわかります。
それでは、他の業種と比べた場合はどうでしょうか。
以下は商品販売の有効求人倍率との比較です。
参照:一般職業紹介状況(職業安定業務統計)|厚生労働省
URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
商品販売でも飲食業と同じように、4月から減少が始まっています。もともとは飲食業と商品販売の求人倍率には1以上の差がありましたが、現在はほとんど同じ値になっています。下落幅を見てみても、飲食業界のダメージは他の業界と比べても大きいことがわかります。
2021年10月現在、新型コロナウイルスの感染者は減少傾向にあり、長く発令され続けていた緊急事態宣言は9月30日をもって解除されました。現在もリバウンド防止のため、都市部では未だに規制がある状態ですが、各地で飲食店の規制が緩和され始めています。
そういったことから、10月以降は営業再開に向けて求人を募集する飲食店が増えると予想されており、よって飲食業界の有効求人倍率も上昇することが考えられます。
また、これまで全国の人たちが会食や宴会を自粛していたことを考慮すると、今後飲食店には多くの利用客が見込まれるため、以前の求人倍率程度もしくはそれ以上に値が上がる可能性もあるでしょう。
しかし、有効求人倍率が上昇するということは、飲食店にとっては人手不足の状態になるということです。
さらに、これまで長い間緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されていたことによって、求職者たちが飲食業界に不安を感じたり、すでに別の業界に就職してしまったということも考えられるため、今後は業界全体で採用に向けた計画や施策が重要になってくるでしょう。
まとめ
新型コロナウイルスの流行によって、多くの企業ではリモートワークが導入されるなど、私たちの生活様式は大きな変化がありました。
特に飲食業界では、店内での飲食に関する規制が厳しくなったことで、デリバリーやテイクアウトの需要が高くなるなど、新たな営業形態を模索しなければいけない飲食店も多かったでしょう。
今回、新型コロナウイルスによる有効求人倍率の変化を見てきましたが、求人倍率の数値を見ることで飲食業界へのダメージはより明確になったと思います。
また、現在の求人倍率の値が以前の1/3程度まで下がっているということは、世の中の状況がよくなるにつれて、これから求人倍率は2倍・3倍になることが予測できます。その結果、飲食業界にとっては人手不足が深刻になる可能性も見えてきました。
今後の採用活動で意識する点
今後、ワクチン・検査パッケージの活用が開始されたり、リバウンド防止の規制が解除されれば、飲食業界への需要が高まるとともに、人手不足も進むことが予測されます。
そういった非常事態に向けて、どういった点を意識して採用活動をしていくべきなのでしょうか。
一番重要なことは早い段階で採用計画を構築し、実施していくことです。
すでに現在の飲食業界の形態はデリバリーやテイクアウト、通販やミールキットなど多種多様になってきています。採用計画・方法を構築するにあたっても、会社や店舗の形態・特徴に合わせた施策を練るということが、今後深刻な人手不足を避けるための大事なポイントになるでしょう。