近年、自宅を活用した飲食店の開業に注目が集まっています。新型コロナウイルスの影響で働き方が多様化するなか、自宅で飲食店を営むことは、新たなビジネスの選択肢として魅力的です。
初期費用を抑えられることや、通勤時間がないことなど、自宅での開業には多くのメリットがあります。しかし、一般住宅を店舗として使用するには、法的な手続きや設備の整備など、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。
この記事では、自宅で飲食店を開業するために必要な手続きや注意点を詳しく解説していきます。
自宅で飲食店を開業する際の営業許可の取り方
自宅で飲食店を開業するためには、複数の営業許可と届出が必要となります。保健所への申請や行政への届出など、適切な手続きを順序よく進めることが重要です。
飲食店営業許可を取る
飲食店営業許可は保健所に申請する必要があります。申請には、店舗の図面や設備の仕様書、給排水設備の配置図などの書類が必要となります。自宅を店舗として使用する場合は、食品衛生法に基づく基準を満たす必要があります。
具体的には、専用の調理場の確保や、手洗い設備の設置、十分な換気設備の整備などが求められます。また、事前に保健所の担当者と相談し、必要な改修工事について助言を受けることをお勧めします。
喫茶店営業許可を取る
喫茶店として営業する場合は、飲食店営業許可とは別に喫茶店営業許可が必要です。申請手続きは飲食店営業許可と似ていますが、提供できる食品の範囲が限定されています。
主にコーヒーや紅茶などの飲み物と、既製品の菓子類、簡単な調理で提供できる軽食が対象となります。自家製のケーキやお菓子を提供する場合は、別途菓子製造業の許可が必要になる場合もあります。
営業許可の申請費用は地域によって異なりますが、通常2万円から5万円程度必要です。また、許可の有効期限は5年間となっており、更新時には再度申請が必要です。申請から許可が下りるまでには、通常1〜2ヶ月程度かかります。
この間に保健所の立入検査があり、基準に適合していない箇所があれば改善指導を受けることになります。事前に保健所のチェックリストを入手し、すべての要件を満たしているか確認することをお勧めします。
許可申請の際には、提供予定のメニューリストも提出する必要があります。特に注意が必要なのは、調理工程の複雑な料理や生もの、乳製品を使用する料理については、それぞれ具体的な衛生管理方法を示す必要があることです。
また、テイクアウトやデリバリーサービスをおこなう場合は、その旨を申請時に記載し、適切な包装資材や温度管理方法についても説明が求められます。営業許可取得後も、新メニューの追加時には保健所に相談することをお勧めします。
開業届を提出する
営業許可を取得したら、税務署への開業届の提出が必要です。これは事業開始から1か月以内に行う必要があります。また、所得税の申告方法や、青色申告の選択についても検討が必要です。
開業届と併せて、個人事業の開始届出書や、事業開始等申告書なども提出します。必要に応じて、社会保険や国民健康保険の切り替えの手続きも忘れずにおこないましょう。
また、クレジットカード決済やモバイル決済を導入する場合は、それぞれの決済事業者への加盟店申請も必要です。従業員を雇用する予定がある場合は、労働保険や雇用保険の手続きも忘れずにおこないましょう。開業後の確定申告に向けて、適切な帳簿の作成方法も事前に確認しておくことをお勧めします。
自宅で飲食店をはじめる際に必要な資格
自宅で飲食店をはじめる際に必要な資格は、以下の2つです。
- 食品衛生責任者
- 防火管理者
それぞれ詳しく解説します。
食品衛生責任者
食品衛生責任者は、飲食店での食品衛生管理の要となる資格です。食中毒の予防や衛生管理の基準について学び、店舗での衛生管理を適切に行う責任者となります。
取得方法は、各都道府県が実施する講習会を受講することです。講習内容には、食品衛生法の基礎知識や、食中毒予防の実践的な方法、衛生管理の具体的な手順などが含まれます。なお、調理師や栄養士の資格を持っている場合は、別途取得する必要はありません。
防火管理者
防火管理者の資格は、店舗の火災予防と安全管理のために必要です。収容人数が30人以上の店舗では、防火管理者の設置が法律で義務付けられています。
資格取得には、消防署が実施する講習を受講し、修了試験に合格する必要があります。講習では、防火管理の基礎知識や、避難訓練の実施方法、消防設備の取り扱いなどを学びます。
自宅で飲食店を営業する際の条件
自宅で飲食店を営業する際には、以下の条件を確認する必要があります。
- 用途地域の確認
- 建築基準法に基づく用途変更
- 消防法の基準を満たす
- 騒音・臭気対策
- 駐車場・駐輪場の確保
それぞれ詳しく解説します。
用途地域の確認
自宅で飲食店を開業する前に、まずその地域の用途地域を確認する必要があります。用途地域によっては、飲食店の営業が制限または禁止されている場合があります。
市役所や区役所の都市計画課で確認できます。住居専用地域では原則として飲食店の営業はできませんが、第一種住居地域や近隣商業地域であれば可能です。また、建物の規模や営業時間に制限が設けられている場合もあるため、事前に詳しく確認しましょう。
建築基準法に基づく用途変更
自宅を飲食店として使用する場合、建築基準法に基づく用途変更が必要となります。これは一般住宅から飲食店への建物用途の変更を行うための手続きです。
用途変更には、防火設備の設置や避難経路の確保など、様々な基準を満たす必要があります。また、床面積が一定以上の場合は、建築確認申請が必要となることもあります。
用途変更の申請には、建築士による図面作成が必要となり、費用は規模にもよりますが20万円から50万円程度かかることが一般的です。特に重要なのは、耐火構造や防火区画の設置、階段や出入口の幅員確保です。店舗面積が100平方メートルを超える場合は、建築確認申請が必須となり、より厳密な基準を満たす必要があります。
また、バリアフリー法に基づく設備の設置も検討が必要で、段差の解消や多目的トイレの設置なども求められる場合があります。
消防法の安全基準を満たす
飲食店として営業するためには、消防法で定められた安全基準を満たす必要があります。具体的には、消火器の設置や、火災報知機の設置、避難経路の確保などが必要です。
特に調理場では、業務用の厨房設備を使用する場合、火災予防のための設備や、換気設備の設置が求められます。定期的な点検と維持管理も重要です。
特に重要なのは、消火器の種類と設置場所の選定です。
調理場には、油火災に対応できるK型消火器の設置が必要です。また、自動火災報知設備の設置が必要な場合、工事費用は50万円から100万円程度かかることも想定しておく必要があります。加えて、避難誘導灯や非常用照明の設置、防炎カーテンの使用なども必要です。
消防設備士による定期点検も義務付けられており、年2回の点検と報告が必要となります。
騒音・臭気対策
近隣住民との良好な関係を維持するために、騒音や臭気への対策は不可欠です。換気扇からの調理臭や、客の出入りによる騒音などが問題となる可能性があります。
防音設備の設置や、高性能な換気システムの導入を検討しましょう。また、営業時間の設定にも配慮が必要です。
防音工事には、壁の遮音材の施工や二重サッシの設置、防音カーテンの使用などが含まれ、工事費用は100万円以上かかることもあります。換気設備については、活性炭フィルターや脱臭装置の設置が推奨され、特に油煙対策には油煙除去装置の設置が必須です。
また、深夜営業を行う場合は、追加の防音対策や、客の出入り時の騒音対策として、出入口への防音室の設置なども検討が必要です。定期的な騒音・臭気測定もおこない、基準値を超えていないか確認することをお勧めします。
駐車場・駐輪場の確保
お客様の利便性と近隣への配慮のため、適切な駐車スペースを確保する必要があります。地域によっては、条例で必要台数が定められている場合もあります。
自宅の敷地内に確保できない場合は、近隣の駐車場を借りるなどの対策が必要です。また、自転車での来店客のための駐輪スペースも考慮しましょう。
駐車場の必要台数は、店舗面積や条例によって異なりますが、一般的には客席数の15〜20%程度の駐車スペースが必要とされます。月極駐車場を借りる場合、1台あたり月2〜3万円程度の費用を見込む必要があります。
また、従業員用の駐車スペースも別途確保が必要です。駐輪場については、自転車ラックの設置や、雨よけの設置も検討しましょう。繁忙時の駐車場整理係の配置や、駐車場案内の看板設置なども重要な対策となります。
自宅で飲食店を営業する際の注意点
自宅で飲食店を営業する際の注意点は、以下の3つです。
- 自宅のセキュリティ対策を十分におこなう
- 保険の加入を忘れずに
- 衛生管理の徹底
それぞれ詳しく解説します。
自宅のセキュリティ対策を十分におこなう
自宅を店舗として使用する場合、プライバシーとセキュリティの確保が重要です。店舗スペースと居住スペースを明確に区分し、来客が居住区域に立ち入れないよう工夫が必要です。
防犯カメラの設置や、セキュリティシステムの導入も検討しましょう。また、現金管理の方法や、貴重品の保管場所にも注意を払う必要があります。
防犯カメラの設置には、店舗出入口、レジ周り、調理場入口など、重要なポイントを押さえる必要があります。
システムの費用は20万円から50万円程度で、録画装置やモニターも含まれます。また、店舗と住居スペースの区分けには、専用の施錠システムの導入や、セキュリティゲートの設置も効果的です。
夜間の防犯対策として、センサーライトの設置や警備会社との契約も検討しましょう。従業員の入退店管理システムの導入も、セキュリティ強化に有効です。
保険の加入を忘れずに
事業を守るために、適切な保険への加入が重要です。火災保険や、賠償責任保険、食中毒保険など、飲食店経営に必要な保険を検討しましょう。
特に、一般住宅の火災保険では営業活動がカバーされない場合が多いため、事業用の保険に切り替える必要があります。
飲食店向けの総合保険には、施設賠償責任保険、生産物賠償責任保険、店舗休業補償、現金盗難保険などが含まれます。
年間保険料は売上規模にもよりますが、30万円から50万円程度を見込む必要があります。特に重要なのは、食中毒や異物混入に対する補償で、最近では新型感染症への対応も含まれる保険商品も登場しています。
従業員のケガや病気に対する労災上乗せ補償保険の加入も検討が必要です。保険の見直しは年1回程度行い、補償内容が事業規模に適しているか確認しましょう。
衛生管理の徹底
自宅での飲食店営業では、一般住居としての生活と店舗としての衛生管理を両立させる必要があります。調理場の清掃や、食材の管理、器具の消毒など、徹底した衛生管理が求められます。
定期的な清掃スケジュールを組み、チェックリストを作成するなど、システマチックな管理体制を整えましょう。
具体的な衛生管理のポイントとして、食材の受け入れ時の温度チェック、保管場所での温度管理、調理器具の洗浄・消毒手順の確立が重要です。また、従業員の健康管理として、毎日の体調チェックや、定期的な検便検査の実施も必須です。
HACCP(ハサップ)に基づく衛生管理では、重要管理点の設定と、その記録の保管が求められます。清掃については、営業前後の清掃チェックリストを作成し、特に調理場の床や壁、換気扇などの清掃を徹底することが重要です。
まとめ
自宅で飲食店を開業するには、様々な許可や資格の取得、設備の整備が必要です。特に重要なのは、法的要件の遵守と、近隣への配慮です。
開業前の準備をしっかりとおこない、必要な手続きを着実に進めることで、安全で快適な店舗運営が可能となります。また、定期的な見直しと改善も忘れずおこない、持続可能な経営を目指しましょう。