飲食店を開業するにあたっては必ず事業主体を選ばなければなりません。しかしお店の運営の経験がない方にとっては複雑で分かりづらいものです。
そこでここでは、お店を開業するにあたって最初に選択することになる2つの事業主体と、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。事業主体を理解したうえで自分だけのお店をオープンする最初の一歩を踏み出しましょう。
事業主体とは
はじめてお店をオープンする方が最初に悩むのが事業主体についてです。
事業主体とは、「事業を進める際に主となって事業を推し進める組織体」で、お店を持つには必ず事業主体を決める必要があります。事業主体にはそれぞれメリットやデメリットが異なり、自身のビジネスプランに合った事業主体を選択することが大切です。
お店を開業する手順は人によって異なり、一番最初のコンセプト設計の段階で事業主体を決めている方もいれば、事業計画の段階で予算や規模と照らし合わせながら決める方もいらっしゃいます。
いずれは事業主体を選択しなければいけませんので、まだぼんやりとした構想しか描いていないのであれば、なるべく早い段階で考えるようにしておきましょう。
また、お店を開業する際には他にも
- 物件探し
- 資金調達
- 店舗内外装設計
- 備品購入
- 諸官庁届出、手続き
など決めなければならないことがいくつもありますが、事業主体の選択もその内の1つとなります。
事業主体は大きく分けて2種類
事業主体は大きく分けて
- 個人事業主
- 法人や団体
の2種類が存在します。
初めて開業する方や資金に余裕のある方は、どちらを選べば良いか判断に悩まれると思います。しかし、事業のコンセプトや計画がある程度すでに固まっているのであれば、選ぶのは難しくありません。
それぞれのメリットやデメリットをきちんと理解した上で、どちらの事業主体が自分の理想とするお店の運営に向いているかを判断しましょう。
個人事業主
自分のお店を持つ際に最も手っ取り早く、小規模で開業できるのが個人事業主です。
個人事業主とは「法人を設立せず、個人として事業を行っている人」を指します。法人は企業をいくつも作れますが、個人事業主として申請できるのは1つまでです。
そして法人でないと従業員を雇用できないかと思われがちですが、個人事業主であっても従業員の雇用は可能です。ただ雇用には公的手続きが必要になりますので、「労働条件通知書」の発行や税務署への届け出などを忘れないようにしましょう。
【メリット】
- 事業開始までにかかる費用が0円
- 廃業時に費用がかからない
- 開業手続きが簡単これから自分の飲食店を持つ方にとっては、ほか形態よりも信用力が高く、株式出資によって資金を調達できる「株式会社」が最もおすすめです。
- 経理などの事務負担が少ない
法人に比べて、手続きにかかるコストと手間は個人事業主の方が圧倒的にお得です。その他にも、開業までの手続きが簡単なため、比較的気軽に開業できます。
利益が少ないうちは税金などの普段担が少ないので、資金が少なく小規模からお店を始めたい方に向いている事業主体です。
【デメリット】
- 認知・信用性が低く、融資を受けづらい
- 給与や生命保険料が経費にできない
- 赤字の繰越が3年まで、かつ青色申告でないと適応不可
- 上場できない
- 法人に比べて人気がなく、人材採用で不利
個人事業主はお店を大きく発展させたい場合に不利になりやすいです。
個人事業主は、売上高から必要経費を差し引いたものが、そのまま自分の所得となり、所得税という税金がかかります。一方、法人は、売上高から必要経費と給与所得を差し引いたものに法人税がかかります。この場合、売上が高くなると所得税の税率が法人税よりも高くなることがあります。
法人や団体
個人事業主と対になる事業主体が法人や団体です。法人とは「自然人以外で法律上の権利義務の主体なる資格が認められているもの」を指します。
個人事業主と同じく、法的権利や義務を負うことが法的に認められていますが、課せられる税金や受けられる控除が異なります。
また会社という組織には
- 株式会社:最も一般的な会社形態で、資本金1円からでも設立可能
- 同会社:株式会社に比べて設立の手続きが簡単、かつ法定費用も半分
- 合資会社:少ない資本で設立できる法人だったが、最低資本制度が撤廃により現在はあまり需要がない。
- 合名会社:無限責任社員のみで構成されている会社。個人事業主に近い。
の4つの形態が存在します。
これから自分の飲食店を持つ方にとっては、ほか形態よりも信用力が高く、株式出資によって資金を調達できる「株式会社」が最もおすすめです。
- 有限会社は、2006年の新会社法施行によって廃止され、現在では新しく設立することができませんのでご注意ください。
【メリット】
- 経費に認められる範囲が広く柔軟
- 人事採用に有利
- 社会的信用度が高く、融資に有利
- 赤字の繰越が10年と長い
- 所得税よりも税率の低い法人税
社会的信用については個人事業主よりも法人会社の方が有利です。融資の受けやすさはもちろん、取引先が上場企業の場合は事業の契約リスクが少なくなります。
取引先とトラブルが発生してしまった場合、損害賠償請求される可能性もゼロではありません。負担する金額が大きくなってしまうと個人事業主ではリスクがあるとして、契約を結べないとする企業もでてくるので注意が必要です。
また、利益が大きい場合には法人の方が、税制においてのメリットが大きくなります。社長の給与も経費となり、売上から給与を経費として差し引くことができるうえ、その給与からも給与所得控除を差し引くことが可能です。
法人が個人より有利になる利益は800万円あたりを目安として考えるとよいでしょう。
【デメリット】
- 事業開始までに法定費用+資本金が必要
- 赤字でも法人住民税がかかる
- 廃業時に解散登記・公告等が必要になる
- 開業や廃業の手続きに手間がかかる
- 社会保険や労働保険の負担
法人として株式会社を設立するには、定款の作成や登録免許税を支払うなど、手続きが複雑になります。特に開業は初めての方にとっては高いハードルになるかもしれません。
事業開始までにかかる費用も株式会社で、約25万円〜の費用が必要になります。資金に余裕があるのであれば問題はありませんが、開業資金の回収に時間がかかる運営モデルの場合は注意が必要です。
また、事業を広げていく上では従業員も増やすことが多いはずです。その際に社会保険料や労働保険料が負担になってしまいます。複数の従業員を抱えるとなると支出も大きくなるので気をつけましょう。
フランチャイズを個人事業主ではじめるケースも増えている
2つの事業主体について解説しましたが、個人事業主からスタートされるケースも増えています。
オーナー自身の将来展望は様々なので、「法人を設立するか、個人事業主として経営するか」は、人それぞれということになりますが、個人事業主での開業も増えているため、ここからはその理由も含めて、個人事業主として飲食店フランチャイズを始めるメリットについてご紹介します。
- 飲食店フランチャイズの中には個人事業主の加盟を受け付けていないところもあります。自分が加盟を考えているフランチャイズ店が個人事業主での加盟を許可しているか確認しておきましょう。
法人に比べて始めやすい
法人に比べて個人事業主は開業費用が少なく、手続きでの手間がかかりません。それは飲食店フランチャイズに限りませんが、開業未経験者にとっては大きなメリットです。
また、飲食店フランチャイズが比較的小額で始められるビジネスモデルが多いことと合わせて、負担する所得税は累進課税のため、利益の少ない個人事業主と相性が良いと言えます。
仮にお店が上手くいかなかった場合のリスクも最小限に抑えられるので、
「飲食店の運営がどんな物か知りたい」 「いきなり店舗の拡大をすることは考えていない」
と考えの方でも、気軽に自分のお店を始められます。
ただ、事務関係などは自分で担当する必要があるため、個人事業用の会計ソフトを用意するか、効率的に進められるように工夫する必要がありそうです。
個人事業主のデメリットが解消されている
個人事業主でお店を開くデメリットの1つに知名度や信用が低い点が挙げられます。しかし、フランチャイズの飲食店の場合は、運営元のブランドの知名度を利用できるため、開店初日であっても来店が期待できます。特に飲食店を始める際は、
「日本政策金融公庫」 「金融機関」
から資金を借入するケースが多いです。融資の受けやすさも個人事業主と法人で異なりますが、実績のあるブランドのおかげで、個人よりも高額な融資が受けられるケースもあります。
従業員を雇うことも出来る
個人事業主で事業をはじめた場合、従業員を雇うことができないと思われがちですが、先述した通り個人でも従業員を雇うことができます。
- 正社員
- 契約社員
- アルバイト、パート
といった人材の雇用が可能で、当然法人と同じように賃金の支払いが必要です。ただ、個人事業主でも雇用した場合に条件を満たせば、助成金や優遇税制の対象となる場合もあります。人を雇用するうえで知らなければ損してしまう制度もいくつかあるので、事前に確認しておきましょう。
- 厚生労働省:事業主の方のための雇用関係助成金https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
【個人事業主が従業員を雇用する際に必要な手続き】
- 労働条件の通知
- 労働保険・社会保険の手続き
- 税務署への「給与支払事務所等の開設届出書」の届け出
- 源泉徴収の準備
そして個人事業主が雇用するには、公的手続きが必要になります。面接の日程を調整したりなど、他にもいくつかの作業が発生するので、期間に余裕をもって計画しましょう。
個人事業主は、福利厚生など面を比べるとどうしても人材の採用での魅力は法人に劣ってしまいます。また、従業員が5人に満たないうちは、厚生年金や健康保険の加入が義務付けられていませんが、それ以上の人数を雇用する場合は、強制適用事業所となり手続きが必要です。将来の展望や計画なども考慮し、「法人を設立するか、個人事業主として経営するか」を考えていきましょう。
- 飲食店フランチャイズの中には個人事業主の加盟を受け付けていないところもあります。自分が加盟を考えているフランチャイズ店が個人事業主での加盟を許可しているか確認しておきましょう。
事業主体は後からでも変更が可能
事業主体は個人事業主と法人の2通りがありますが、これらは後からでも変更が可能です。最初にお店を始める際にどちらかを選択する必要はありますが、そこまで取り返しが付かなくなるものでもありません。準備できる開業資金や最終的な目標などの事業計画から逆算して、現状で最適な事業主体を選ぶようにしましょう。
特に、「小さく始めたいけれど、後々店舗は拡大したい」 「利益が少ないうちの税負担を減らしたい」などの考えがあるのであれば、個人事業主から始めることもよいです。個人から法人化するタイミングとしては、金銭的な理由や精神的負担などさまざまですが、
- 所得が800〜1000万円を超える場合
- 従業員をより多く雇いたい
- 店舗を展開したい
などが目安になります。
所得800万円の場合、個人事業主にかかる所得税率は23%ですが、法人税にかかる法人税率は15%です。控除分を差し引いたとしても個人の納税額が大きくなってしまいます。そのため、法人化する利益の目安は800万円程度と考えておきましょう。
そして、個人から法人はもちろんですが、「お店が上手くいかなかった」などの場合は、法人から個人に縮小することも可能です。法人から個人事業主に戻すには、「休業」 「解散・精算」のどちらかで法人の廃止手続きを行います。事業上手くいかなければ解散する方法は知られてれていますが、今後も事業を続けていくつもりがあるのであれば、休業という選択肢もあります。
その際、個人事業主に戻す場合は再度、個人事業主の開業手続きが必要となるので確認しておきましょう。
- 個人から法人やその逆の変更は可能ですが、個人と法人を掛け持ちすることもできます。その場合、それぞれ別の事業として登録する必要があります。
まとめ
事業主体には個人事業主と法人の2通りがありますが、所得や事業計画によって選ぶべき形態は異なります。後から変更はできますが、事業のスタートはやなり重要です。
- 飲食店フランチャイズでは個人事業主がおすすめ
- 利益の少ないうちは個人事業主の方が税負担は少ない
- 法人化する利益の目安は800万円程度
- 事業開始までにかかる費用が異なる
などの点に気を付けて事業主体を選ぶようにしましょう。また、事業が大きくなり、個人事業主として従業員を雇う必要が出た際は 「雇用手続き」 「退職リスク」 「税務リスク」 について把握してから雇用するようにしましょう。
税制や信用などの違いは当然ですが、開業には目に見えないプレッシャーなどの心理的な負担も存在します。経験のない方でも安心して取り組めるように、早い段階で事業コンセプトを明確にするようにしましょう。